今回は、5月5日のこどもの日にちなんだ昔話をご紹介します。
この日が、「端午の節句」と言われるのはご存じの方も多いと思いますが、
「菖蒲の節句(しょうぶのせっく)」と言われているのは、あまり知られていないのではないでしょうか。
今回ご紹介する昔話は、菖蒲の節句の由来に関するお話です。
こどもの日の前に、子どもたちへ読み聞かせるのにおすすめですよ。
くわずにょうぼう
むかし、むかし、ある村に、七べえという、おけやさんがすんでいました。
七べえさんは朝から晩まで、こつこつ、とんとん、おけをつくっていました。
ある夜のことです。
七べえさんは、お月さまにいいました。
「おらも、よめがほしいんじゃ。お月さんよ、どこかにめしを食わぬ、はたらきもののよめごは、おらんかのう」
七べえさんは、たいへんなけちんぼうでした。
するとつぎの日、七べえさんの家へ、かわいいむすめがやってきました。
「ごはんを食べないよめごがほしいというおけやさんは、ここですね。わたしは、ごはんを食べずに、よくはたらきます。どうか、あなたのよめごにしてください」
そういって、むすめは七べえさんのよめさんになりました。
よめさんは、ほんとうによくはたらきます。
おもいいたをかついで、ひょこひょこはこんでくれます。
それなのに、食事のときは、ちっともごはんを食べません。
七べえさんはちゃわんに山もりのごはんを食べるのに、よめさんはだまって、おちゃをすすっているだけです。
七べえさんは、大だすかりの大よろこびでしたが、どういうわけか、お米がどんどんへっていくのです。
七べえさんはふしぎに思って、ある日、天井うらにのぼって、そっと、ようすを見ることにしました。
するとよめさんは、
「ああ、はらへった、はらへった」と、米びつからお米を出して、大きなかまでたき、大きななべで、みそしるをつくりはじめたのです。
やがて、ごはんがたきあがると、よめさんは、
ほっくら ほかほか めし たけた
ひい、ふう、みい、よう、いつ、むう、なな、
まだまだ たりぬ まだ たりぬ
十や 二十じゃ まだ たりぬ・・・。
と、うれしそうに歌いながら、大きなにぎりめしを、五十こほどつくりました。そして、頭に手をやって、長いかみの毛を、さっと分けました。
な、なんと、頭の上にもう一つ、口があるではありませんか。
ひい、ふう、みい、よう、いつ、むう、なな、
食べろや 食べろ ぱくぱく 食べろ
はらが へっては はたらけぬ・・・。
よめさんは歌いながら、二つの口にどんどんにぎりめしをなげこんでは、ひしゃくでみそしるをすくって、がぶがぶのみました。
七べえさんはびっくりして、ぐびびっと、つばをのみこみました。
「あれは、山んばだ。あんなよめがおっては、わしまで食われてしまう。早く、おい出してしまおう・・・」
七べえさんは、天井うらからそっとおりると、何食わぬ顔をして、家に入っていきました。
「わしは、考えたんだが、やっぱりよめはいらん。なんでもほしいものをやるから、この家から出ていってくれろ」
「そんなら、あそこにある大きなおけを一つくれろ」
「こんなおけ、どうするんだな」
七べえさんがたずねると、よめさんは目をつりあげて、みるみる山んばのすがたになりました。
「へへへへ。おまえをここに入れてって、みんなで食うんだよ」
山んばにすがたをかえたよめさんは、びっくりしている七べえさんをおけの中にほうりこむと、そのおけを、ひょいと頭の上にのせて、すたすた山にむかってあるき出しました。
「な、な、何をする。たすけて、たすけてくれーーーー」
七べえさんは、ふかいおけの中で、さわいでいました。
山道にさしかかると、木のえだがおけの中に、たれ下がってきました。
七べえさんは、それにとびついて、にげ出しました。
「まてえー。七べえ、まてえー。にがさぬぞーー」
山んばは、おけをほうり出して、おいかけてきます。
七べえさんはにげてにげて、やっと谷川のほとりにある、しょうぶのしげみの中に、かくれました。
「どこへいった。七べえは、どこへかくれた・・・」
あとをおってきた山んばは、しょうぶのしげみをかき分けながら、七べえさんをさがしました。
すると、七べえさんのおしりが見えました。
こわいので、おしりまで、ぶるぶるふるえています。
山んばは、にやりとわらって、七べえさんをつかまえようとしました。
そのときです。
しょうぶのとがった葉っぱの先が、ぱちんとはねて、山んばの両目につきささりました。
「ぎゃあー。いたたたた・・・」
山んばはさけび声をあげて、目をおさえましたが、ゆびのあいだから血がながれてきました。
「見えない。見えない。なんにも、なんにも見えない・・・」
山んばは、ふらふらと山おくへ帰っていこうとしましたが、足をすべらせて、川へおちてしまいました。
たすかった七べえさんは、川をながれていく山んばを見つめながら、ほっとむねをなでおろしました。
この日が、ちょうど五月の五日(いつか)でした。
そこで、毎年この日には、七べえさんのように、こわい山んばにおそわれないように、どこの家でも、水辺にはえているとがったしょうぶの長い葉をとってくるようになりました。
そして、やねに立てたり、おふろにうかべて入るようになった、という話です。
さいごに
今回のお話いかがでしたでしょうか。
実際に5月5日には、菖蒲湯に入って邪気を払ったり、菖蒲を軒先にさげて、厄除けを祈願するなど、今でも行われている風習が題材になっています。
この読み聞かせをした後に、「菖蒲の節句」についても、ぜひ子どもたちへ説明してみてくださいね。
それでは。
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